On Beauty: Ayumi Kusumi #16 The luxury of knowing satisfaction

2023.08.25
雑誌メディアやご自身のSNSを中心に、シンプルで丁寧な言葉と美しい写真で織りなす日常や世界観に注目が集まるエッセイスト久住あゆみさんの連載。


久住さんが考える「美」とは?

On Beauty: 満足という贅沢

エピキュリアンという言葉があります。一般的には亭楽者とか、快楽主義者といった意味で使われている言葉ですが、その語源である古代ギリシアの哲学者"エピクロス"という人物を紐解いていくと、言葉の本来の意味からは少々誤解があるようです。

彼は、生きていく上での快楽を追求した哲学者でした。彼がたどり着いた究極の答えは「満足という名前の贅沢」だったようです。

そして、その贅沢には必ずしも、多くのものが必要でないことにも気がつきました。彼の場合は、数本のイチジクの木が生えた小さな庭、少しのチーズ、数人の友人。快楽を突き詰めた結果残ったのはたったこれだけでした。

きっと、私たちもそう。

「贅沢」という言葉について考えた時、ついつい世間で贅沢とされている「こと、もの」を思い浮かべてしまいそうになりますが、「贅沢=自分の心が満たされるもの」と考えてみると、案外それは身近にあるものだったり、お金がそんなにかからないものであったり、すでに手にしているものなのかもしれません。すでに手の中にあるのに、まわりにたくさんの「余計」がくっついているせいで、見えなくなってしまっているのかも。

今一度、自分を本当に満たしてくれるものは何か。ゆっくり考えてみるのも良いかもしれません。

自分を満たすものがはっきりとわかれば余計な情報や世間の基準に翻弄されることなく、あちこちに目移りすることなく、落ち着いて自分の「満足」に焦点を当て続けられる。

本当に大切なものがいくつかだけあれば、充分幸せ。それ以外のことはありがたい「おまけ」として、享受しよう。心からそう思えれば、いつも心穏やかで満たされた人になれるように思います。

それぞれが自分だけの「満足という贅沢」を追求していけたら、きっと豊かな社会になりますね。
WRITER
久住 あゆみ -Kusumi Ayumi-
エッセイスト。大阪府出身、東京都在住。上京後、モデルとして主にCM、広告、ショーなどで活動。結婚、出産後しばらくの休業期間を経てエッセイストとして始動。培ってきた感性や体験を活かし、ジャンルに捉われない様々な分野でエッセイを執筆中。