今さら聞けない私たちのからだのこと - 卵子凍結って何?

2023.02.06
あなたのからだのこと・からだの中で起きていること、あなたはどれだけ知っていますか?

好きなことに対しての熱量は高いのに、自分のからだのこととなるとついつい疎かになってしまったり、後回しにしてしまったり。悩みがあっても「今さら聞くのは恥ずかしい」気持ちが顔を出してきてそのままにしてしまったことはありませんか?

「もっと早くに知っておけばよかった」を巻き戻すことはできないけれど、「今知ってよかった」を重ねていくことはできます。この連載では、sowaka women’s health clinicの竹元葉先生に、私たちのからだのこと・からだの中で起きていることを基本の基から聞いていきます。
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卵子凍結って何?

生まれた直後から減っていく、卵子


今回は、ニュースやSNSで最近良く見かける「卵子凍結」について聞いてまいります。字面の通り、卵子を凍結するんだろうなということはわかるのですが……。

竹元先生
卵子凍結についてお話する前に、基本的な知識について少し。もともと卵巣の中には卵子のもとになる細胞(卵母細胞)があります。卵母細胞はお母さんのお腹の中にいるときが最も多く、約700万個といわれていますが、生まれるときには約200万個に、排卵・生理がはじまる10代の頃には約30万個まで減ります。

生まれる前がいちばん多いのですね……。知らなかった。

竹元先生
毎月生理が来ると1つの卵子が排卵するので、卵子自体も1つしか消費されないと思っている方が多いかもしれませんが、実際は違います。1回の排卵のために大体1000個くらいの卵が消費されると言われていて、そのうちいちばんいいタイミングのものが排卵する仕組みです。現代の女性は一生のうち400〜500回くらい生理があると言われていますが、初めて生理が来てから毎月1000個ずつ卵子が減っていっていることになります。人によって個人差はありますが、年齢とともに卵子の数も質も下がり、妊娠できる確率も低くなっていきます。

うう、シビアな現実。

竹元先生
パートナーが未定の方が、将来の出産のために自分の卵子だけを凍結させておく行為を卵子凍結(未受精卵凍結)と呼びます。みなさん興味をお持ちですが、卵子凍結をしたからといって将来絶対に妊娠できると確約されるわけではないという現実はお伝えしておきたいです。過去のデータによると、34歳のときに20個凍結したら約90%の方が、40歳のときに20個凍結したら約50%の方が一人の子を妊娠できるとされています。(下図参照)

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加齢によって確率がかなり異なるのですね。

竹元先生
卵子凍結についての相談を受ける機会が増えていますが、「将来的にこの人と子どもをつくりたい」と既にパートナーが決まっている方は、より成功率の高い受精卵凍結(精子と卵子を合わせた状態で凍結する)のほうがいいですよ、とお話しています。

卵子凍結がいいのか受精卵凍結がいいのかは、その時の状況によって判断したほうが良さそうですね。

卵子の老化は誰にも止めることはできない(今は)


ものすごく馬鹿な質問かもしれませんが、赤ちゃんのときがいちばん卵子が多いということは、赤ちゃんのときに卵子を採取して凍結しておくことはできないのでしょうか?

竹元先生
できません。私たちが生きている間は無理かもしれませんが、将来的には可能になるかもしれませんね。子どものうちに凍結しておく、確かにユニークな発想です(笑)。

もうひとついいですか……。中学高校時代、部活のしすぎで無月経だったのですが、止まっていた分、卵子も減っていないということはないのでしょうか。

竹元先生
無月経だった方やピルを飲んでいる方は、閉経の時期が遅くなったり卵子が温存されたりすると思われている方が多いですが、そんなことはありません。排卵が止まっていることは事実ですが、卵巣自体は年を取るので、閉経が伸びたり卵子の減りが止まることはありません。年齢には抗えないということです。

そうですよね、そんなうまい話があるはずないですよね。

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竹元先生
ピルを飲むことで毎月の排卵を抑えることができるので、不妊症の原因になりうる子宮内膜症などのリスクを減らすという点では大きなメリットがあります。ただ、排卵を抑えてはいても、卵巣自体の老化を止めておくことは残念ながらできません。

ずっと気になっていたのでお聞きできてよかったです。どのような目的で卵子凍結に挑戦される方が多いのでしょうか。

竹元先生
医学的適応、例えば、がん治療のため、卵巣機能に影響するような抗がん剤や放射線治療をしなければならない方が、治療前に卵子や卵巣を凍結するというケースがほとんどでした。最近では、社会的適応、自身のライフスタイルやキャリアを考える上で、今は妊娠したくないが将来的には子どもが欲しい、と考えている方が増えてきたと思います。

女性の働き方が多様になるにつれて、目的も変化していったのかもしれませんね。具体的にどのような手順で行われるものなのでしょうか。

竹元先生
病院で説明を受け、いくつか検査をします。その後凍結させるための卵子を一度にたくさん取らなければならないのでホルモン剤などを使って卵子を育てていきます。その際に卵巣過剰刺激症候群(※1)を発症する可能性があります。現在は技術が進歩しているので少なくなってきていますが、リスクがあることは事実です。卵子が十分育ったところで針で刺して採卵し、凍結します。

※1 卵巣過剰刺激症候群(ohss)・・・卵巣を刺激しすぎたことが原因で起こる。お腹が痛くなったり腹水がたまったりする合併症。

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針を……どこに刺すのでしょうか?

竹元先生
腟です。腟から針を刺して採卵します。

なんだか下半身がチクチク痛くなってきました。

竹元先生
麻酔をしてくれる病院もありますが。わたし自身、受精卵凍結をしたことがあり、この採卵も経験していますが、まぁまぁ痛かったですが飛び上がる程ではなかったと記憶してます。もちろん個人差はあるかと思いますが。

卵子凍結の厳しい現実


……。痛みは覚悟するとして、卵子凍結にはどれくらいの金額がかかるものなのでしょう。

竹元先生
頑張って卵子を育てても、十分な数の卵子を凍結できなかった場合は、数周期トライすることも。何回の採卵で十分な数を凍結できるのか、実際にいくつの卵子を凍結するのかによってかかる時間も金額も変わってきます。

10個採取して〇〇円、のような金額形態なのでしょうか?

竹元先生
クリニックによってもさまざまです。自費診療なので決まった値段はありません。1個あたり〇〇円のクリニックもあれば、10個までは〇〇円で、というところも。なかなかこう、いくらでできます! とお答えするのは難しいですが、安くても40万円台〜高いところで80万円程度。そして大体は毎年の更新に追加料金が発生します。

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歯列矯正なみの高さ……。気軽に手を出せるものではないですね。痛いし、高い。

竹元先生
凍結しているものを溶かしたときに卵子が生存している確率は約8〜9割。その後きちんと受精するのが約7割。さらにその受精卵を体に戻したときに妊娠する確率は受精卵の質や年齢にもよりますが約2〜3割と言われています。難しい現実を理解した上で、それでも挑戦する方は増えてきています。きちんと情報を得て、納得した上で決断することが大事だと思います。

先ほど紹介していただいた図を見る限り、決めたらできる限り早めにするに越したことはなさそうですね。

竹元先生
はい、ただ、費用もそんなに安くはないので難しいものがありますよね。過去には自治体では初めて、浦安市が卵子凍結の助成を行ったことが話題になりました。

企業の支援については聞いたことがあります。

※参考
「若いうちに卵子凍結」選択肢に キャリアと出産両立
卵子凍結、企業で支援広がる メルカリやデロイトなど


竹元先生
企業の方針としては良いですね。女性が活躍しながらも自分のタイミングで妊娠をすることができる、その支援をするという意味で。私が以前勤めていた産婦人科のクリニックでも、スタッフ向けに卵子凍結にかかる費用を一部負担する福利厚生がありました。今後導入する企業も増えていくのではないでしょうか。

子どもを産むことだけが幸せではない時代に


最後に、卵子凍結に取り組む前にできることについて教えてください。

竹元先生
まずはよく考えること。自分の体に起きることなので主体的に考えていただきたいです。将来子供は絶対に欲しいか、仕事はどうしたいか、自分がどのような人生を歩みたいか……具体的に考えていく中で、卵子凍結という選択肢もあるという事を知っておいてください。中には、卵子凍結を考えていたけれど、色々と考えた上で、今すぐ婚活して結婚できたらすぐ妊活します!と方針転換される方もいらっしゃいます。

あとは、自分の身体の事をよく知っておくことも大切です。子宮や卵巣に病気はないか検診を受けたり、排卵のリズムが整っているか生理周期や基礎体温を記録したり、まずは自分の身体の事をよく知って欲しいです。

人生設計は迷っているけれど、将来的に子どもを産むことが自分にとって幸せの一つになりえるかもと思う方は卵子凍結について調べたり考えてみてもいいのかもしれませんね。

竹元先生
でも実際は、いつかは子どもが欲しいけど、将来それだけで確実に妊娠できるという保証があるわけではない卵子凍結に投資するのはまだまだハードルが高いのも事実です。また、卵子凍結をすること自体が社会的ステイタスのように扱われるのも個人的には違うと思います。

卵子凍結について考えることは、自分のライフプランについて考えることでもあります。

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子どもを産む産まないということ自体が、女性の人生をものすごく変えることですもんね。

竹元先生
産むことが正義という時代ではなくなってきているように、いろんな幸せのカタチがありますよね。それを誰かが「こうこうあるべき!」と決める必要はないと思います。自分が幸せに過ごせたらそれがいちばん。今はいろいろな情報があふれていますが、焦らず流されず、冷静に情報に触れて学ぶことで、自分はどういう人生を歩みたいのか、自分の人生を考えるきっかけづくりをしていただければ、と思います。


interview・text:貴子