わたしをつくる美的小物 vol.5 田中シェン

vol.5 田中シェン(モデル・女優・イラストレーター)

モデルだけでなくアーティストとしての顔ももつ田中シェンさん。ルイ・ヴィトンのワンピースとスニーカーという姿で現れた彼女は、自分をアップデートしてくれる美的小物を紹介してくれた。

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〈guepard〉の眼鏡


昨年、人生で初めて度入りの眼鏡を作りました。これまではファッション用のものしか持っていなかったんですが、ちゃんと眼鏡として機能するものを作ったんです。
お肌の曲がり角とか、着ていた服や色がどこか似合わなくなったとか、自分に小さな違和感をもつようになったときでした。それで、どうせなら挑戦したことのないことにトライしてみようと。体の変化に合わせて装備を強化するべく〈guepard〉の眼鏡を選びました。
乱視用の度を入れて、グレーグリーンの調光レンズにして。自分にピッタリ合うものを妥協せずに買いたかったから、フィッティングには3時間くらいかけました。気に入ってるし、よく褒められます。

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〈MIU MIU〉のオードパルファム


私の定番、スタメンで使っている香水ですね。この香水をもらってからずっとリピートしていて、もう4〜5本目かな。友人にも、「香りでシェンが来たってわかる」と言われます。私の雰囲気を纏う大切な一部であり、もうアイデンティティみたい。

ファッションブランドで一番好きなのがミウッチャ・プラダの〈MIU MIU〉なんです。不良のお嬢様というコンセプトが面白い。品はあるけどそれに縛られてない、そういう人になりたいと憧れていました。いつかお仕事したいと思っていたので、近年できるようになったことがとても嬉しいです。

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〈STAEDTLER〉のPigment Linerと、〈uni〉の油性極細サインペン、PIN


ファッションを学んでいたとき、デザイン画を描くために自分に合ったものを探して見つけたのがこの2本でした。ペンって消耗品だし100円ショップにも売っていますけど、私はこれがいい。一定の太さの線で描けるのが好きですね。デザイン画はもうほとんど描きませんが、文字とか漫画とか、日々起きた出来事、書き残しておきたいものは書いています。

“手を動かす”ことを心がけています。今ってなんでもPCで見られるしコミュニケーションも取れるじゃないですか。触感がどんどん減っているなと思って。心地いい音、悪い音というのが私にはあって、だからペンの音も重要。ふと立ち止まってアナログの方法を選ぶと、感性が刺激されて自然な状態に戻れます。ペンと紙、そしてそれに向かっているときの音が、すらすらいく時はリズムや呼吸があっていて気持ちいい。反対に、すらすらいかない場合は、そういう状態なんだと今の自分を受け入れる。心の中とか本当の自分とか、そういう見えない対象と会話している感じなんです。

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〈ティファニー〉のネックレス 


母が若い頃に買ったものを私にくれました。20歳や21歳くらいの、アメリカから日本に渡るときだったかな。受け継ぐ、という行為が嬉しかったですね。

このネックレスを大切にすることが母を大切にしていることにつながる気もするし、自分にいつか子どもができたときに、良い形で渡せたらもっと素敵なものになるんじゃないかなと思います。

仕事でもプライベートでも、大切な人に会うときにつけるネックレスです。一番の敬意を示すにはその人に会う時間を作ること。リラックスした服で会うのも良いけど、大切な人だからこそ大切なものを身につけて、私がその人に対して敬意を払っていることを、たとえ相手が知らなくても表現したいから。

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『性悪猫』(ちくま文庫)やまだ紫=著


ふらりと入ったブックカフェで偶然見つけた本です。猫を飼っているので猫を題材にしているものに弱くて。描かれているのは古き良き昭和の時代。猫の視点から人間の女性が描かれているんですが、その女性が洗練されて芯がある、自分のなりたい像に重なりました。

怖いものなんてなかった人間が、大切なものを得たとき、温もりを知ったとき、失うことの怖さを知って弱くなる姿が描かれているんですが、守るものがあることが人を弱くも強くもするという姿が、説教くさくなくて好きでした。

自分の母親を思い出しましたね。母を完璧な人間だと思ってしまうんだけど、母も一人の人間として成長過程にあると思うと、もっと優しく接しようって。

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私だけの、多様な美しさ。


自分がどういう人かが、年々わかるようになってきたと思います。美しくなるために、誰かのおすすめに従わなくても、自分だけのレシピがあっていいんだと。

私は自分を「百の顔をもつ女」だと思っていて、会う人によってキャラクターが変わるのが楽しいんです。相手が違えば化学反応が違うのは当たり前。本当の自分は一人じゃなくて、10人くらいが集まってようやく自分なんだと。それは「分人(ぶんじん)」という言葉なんだよって書店員で作家の木村綾子さんに教えてもらったんですけど。

模倣から取り入れる。


なりたい像や憧れのビジョンがあれば、真似することを恐れないでやっていきたいと思っています。いいなと思った人、考え方、ファッションも美容も全部真似していきたい。自分なりに工夫して、自分にあった形にできたときに自分のものになると思うから。
PROFILE
田中シェン(たなか・しぇん)●女優、モデル。英語、中国語、日本語を話すトリリンガル。「SHENTASTIC creative studio」を設立し、アーティストとしても本格始動。Netflix『First Love初恋』出演中。

*撮影小物はすべて田中さん私物

photography : Kengo Motoie
text : Nobuko Sugawara (euphoria factory)