美しさについて。 vol.1 堀井美香

2022.11.18

vol.1 堀井美香 フリーランスアナウンサー

2022年4月に、27年間勤めたTBSを退社し、フリーランスのアナウンサーとして新たな船出を選んだ堀井美香さん。ナレーションの仕事やジェーン・スーさんとのポッドキャスト番組『OVER THE SUN』のパーソナリティは引きつづき行いつつ、自身のプロジェクトである朗読会に取り組むように。年齢問わず多くの女性たちから支持を集める堀井さんに、「美しさ」についての考えを聞きました。

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——フリーランスになって本格的に取り組むようになったという朗読会。どういう思いからなんですか。

朗読会は、TBS社員時代から行っていたんです。ただ、読むのは後輩たちで、私はスポンサー探しや企画から携わるプロデューサー側。小さな会場から始めましたが、どんどん大きくなり、著名な演出家の方にも参加していただけるまでに成長しました。私は読み手ではないので、お稽古のときはお弁当を揃えたりしながら「いいなあ、私も読みたい、レッスンしてもらいたい」という気持ちがあったんです。なのでフリーになったら自分の舞台を作りたいと、『yomibasho PROJECT読み場所プロジェクト』という会を始めました。

お客様との距離が近い手作りの会でしたが、正面に立つことに怖気付いてしまう瞬間があって、チケット代が高かったかななんて迷いが生じたんですよね。そこでお客様がお帰りの時にQUOカード1000円分をお渡しして、横に置いた寄付箱に入れていただくという仕組みを考えたんですが、友人や身内にはややこしいって不評でした(笑)。
毎回試行錯誤しながら、これからも自分が気持ちよく朗読できるようにやっていきたいと思います。

yomibashoとは別に、瀬戸内海の因島で子どもたちを対象にした無料の朗読会を開催しました。かわいかったですね。子どもたちは私がどんな人かなんて知らないので、気をひくためにお菓子をいっぱいレンタカーに詰めて。今までだったら出会わなかったであろう人たちとの時間が楽しみで、お代をいただいて大きな会場でやるもの、地方で子どもたち数名と読み合う会も、両方行っていけたらと思います。

——ナレーションと朗読の大きな違いはどのようなものなんですか。

ナレーションは、ブースに入り、初見で原稿を読み完結する作品の作り方で、こちらもとても好きな仕事です。一方で、朗読は原稿を何度も読み、その場所を訪れてみたり、研究したり。一字一句に思いをつめていく作業で、豊かだなと思います。

——次に読むのは、三浦綾子さんの『母』だとか。作品はどのように選ぶんですか?

会場が決まってから、そこに合ったものを選ぶようにしています。12月に予定している朗読会は、ルーテル市ヶ谷ホールで、他の作品も考えていたんですが、たまたまある人とキリスト教文学の話をしていて、三浦綾子という選択肢に気づいたんですね。『氷点』しか読んだことがなかったので、そこからいくつか読み始めました。

次の日くらいに、三浦綾子の「泥流地帯読書会」も開催されている上富良野の方からご連絡をいただいて。突然全然知らない土地の方からそのようなお話をもらい、運命を感じました。結局その会はタイミングが合わず実現しなかったのですが、『母』という作品は小林多喜二のお母さん・セキさんが多喜二について語っている本で、そのセキさんも私と同じ秋田出身だったんです。読んでいると、私の祖母や親戚のおばあちゃんたちが話しているような感じもあり、これは導かれていると思いましたね。

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——ジェーン・スーさんとのポッドキャストも2年経ちました。若い女性リスナーも多いと思うのですが、彼女たちにかけたい言葉はありますか。

日々色々なことがあると思いますが、昨日と今日が違うように、いいことも悪いことも必ず終わると思っています。悪いことがあってもいつかはなくなりますし、幸せなことがあってもずっと続くわけではないと思うと、すべてに尊さを感じます。終わりがあるというのをポジティブに考えるといいと思います。

——年を取るということについて、とくに女性にとってはネガティブな印象がまだ社会的価値観として根強くあると思います。堀井さんはどのように考えていますか。

昔から、1、2年先の先輩よりも10、20歳年上の女性に憧れるタイプでした。自分が憧れる方とご一緒するようにしていたので、例えば40歳の時には50歳の人を見ていて、50になるのはちっとも怖くありませんでした。今も70歳くらいの好きな女性が何人かいて、ああいうふうになれるなら早く60とか70とかになりたいと思うんです。なので、老いや年を重ねることの恐怖感は少ないんだと思います。

若くなくなったとしても、自分が美しいと思うものが正解、周りにどう見られてもいいかなって、フリーになってとくにそう思うようになりました。

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——美しさ、美しい人というと何を思い浮かべますか。

昔は、控えめとか謙虚とか、そこに凛として佇むとかが美徳だと思っていたし、時代小説に出てくるような、じっと耐えて誰かを支える女性を素敵だと思っていました。
もちろんそれも素敵ですが、色々な場所で女性たちが自由に輝いている姿を見て、一人でも自信を持って前にちょっと出てみたり、私にやらせてくださいと主張できるって強くてかっこいいなと思うようになったんです。

もちろんさじ加減には気をつけないといけませんが、2歩も3歩も下がらずに、自分のポジションを前に出してみたいという自由さを、この歳になってようやく感じています。

自分の価値観にもとづいて、自分の好きなことをやれる人が美しいんじゃないかな。そこに優しさをプラスする。相手や、後から来る人とか、周りの人や知らない人への優しさを、どう表現していくか。そういうことを考えられる人が美しいかなと思います。

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PROFILE
堀井美香(ほりい・みか)
1972年生まれ、秋田県出身。1995年、TBSに入社。結婚・出産を経てさまざまなジャンル・番組のナレーションを担当するほか、TBSアナウンサーによる朗読会「A’LOUNGE」のプロデュースも手がける。2022年3月にTBS を退社し独立。現在はTBSラジオ『メタウォーター presents水音スイッチ』やPodcast『ジェーン・スーと堀井美香の“OVER THE SUN”』
https://www.yomibasho.com/

movie & photo=Sachie Abiko
text=Nobuko Sugawara(euphoria factory)