On Beauty: Ayumi Kusumi #21 Less is more

2023.11.17
雑誌メディアやご自身のSNSを中心に、シンプルで丁寧な言葉と美しい写真で織りなす日常や世界観に注目が集まるエッセイスト久住あゆみさんの連載。


久住さんが考える「美」とは?

On Beauty: Less is more

先日、ジュエリーを買い足した。
真珠の一粒ピアス。
10年ほど前に所有していたけれど、
いつのまにか無くしてしまったもの。

ブティックへ行って、同じものを求めた時、
自分の変化に気付く。(価格の大きな変化も...。同じものが当時の二倍以上に高騰)

以前はショーケースを見てあれこれ目移りし、
勧められるがまま色々試着し、揺れる気持ちを振り解くようにして、一粒パールを選んだ記憶がある。ブティックを去った後も「あれも素敵だったな」と後ろ髪引かれる気持ちが大きかった。

思えば若い頃はもっともっと、とたくさんのものが欲しかった。最新刊の雑誌をくまなくチェックして、新作のブランドバッグを無理して買って、流行りのメイクを施して。正解を求めて彷徨いながらも、いつも自信がなかった。何が自分に合うのか、本当は何を求めているのかがわからなくて、結果、全てが欲しかったのだと思う。

今はその頃と違い、自分の欲しいものが明確に分かるようになった。

年月をかけて探ってきた、本当になりたい自分像。
それが時と共に結晶化され、モノを選ぶ際の明確な指標となる。

そこに焦点を当てれば、自分の中の「理想の彼女」の価値観に対して忠実な選択と投資ができるようになる。

買うのは少なく、でもより良いモノを。

過剰に消費して、クローゼットの前で途方にくれることは自分の理想ではないとわかった今、未来の自分のために究極の「ザ・ワードローブ」を作ること。
自分だけのタイムレスなジュエリーコレクションを時間をかけてゆっくり作り上げること。

持ち物にも自分の内面世界を映し出すこと。

その行為の積み重ねこそが
私の中の「理想の彼女」近づく唯一の方法かもしれない。

そう思えば、買い物にまた違った情熱が湧いてくる。

一粒パールのピアスを10年ぶりに身につけると、
ひさしぶりに髪を伸ばしたくなった。
私の中の「彼女」は髪をルーズなシニヨンにまとめ、
黒いタートルを着て、素肌に赤い口紅を引いている。
WRITER
久住 あゆみ -Kusumi Ayumi-
エッセイスト。大阪府出身、東京都在住。上京後、モデルとして主にCM、広告、ショーなどで活動。結婚、出産後しばらくの休業期間を経てエッセイストとして始動。培ってきた感性や体験を活かし、ジャンルに捉われない様々な分野でエッセイを執筆中。