今さら聞けない私たちのからだのこと - 尿もれと骨盤底筋

2023.03.23
あなたのからだのこと・からだの中で起きていること、あなたはどれだけ知っていますか?

好きなことに対しての熱量は高いのに、自分のからだのこととなるとついつい疎かになってしまったり、後回しにしてしまったり。悩みがあっても「今さら聞くのは恥ずかしい」気持ちが顔を出してきてそのままにしてしまったことはありませんか?

「もっと早くに知っておけばよかった」を巻き戻すことはできないけれど、「今知ってよかった」を重ねていくことはできます。この連載では、sowaka women’s health clinicの竹元葉先生に、わたしたちのからだのこと・からだの中で起きていることを基本の基から聞いていきます。

aboutourbodies_001_06.jpg

aboutourbodies_001_07.jpg

尿もれと骨盤底筋

尿もれは珍しいトラブルではない


第三回の今回は、個人的には生理以上に人に話しにくい、尿もれや腟トレについて聞いてまいります。いつものごとくそもそもの質問になりますが、尿もれとは?

竹元先生
基本的には自分の意志とは関係なく予期せぬタイミングで尿が漏れてしまう状態を指します。医学的にはいくつかのパターンがありますが、女性でいちばん多いのは腹圧性尿失禁と呼ばれる、急激な腹圧の上昇が原因で起きる尿もれです。
尿もれの種類
腹圧性尿失禁の他に、何らかの原因で膀胱が勝手に収縮し、突然強い尿意に襲われトイレに間に合わず漏れてしまう「切迫性尿失禁」、尿がうまく出せないなど排尿障害があり、残った尿が膀胱から溢れて少しずつ漏れてしまう「溢流性尿失禁」、膀胱の機能は正常だが歩けないなどの運動機能障害や認知症などが原因で起きてしまう「機能性尿失禁」があります。

「腹圧の急激な上昇」って例えばどんなことで起きてしまうのでしょうか。

竹元先生
くしゃみや咳もそうですし、重いものを急に持ち上げたり、身体を折り曲げてする腹筋運動も。保育士さんや介護士さんなど、体をよく動かす機会が多い職業の方は尿もれが起きやすいリスクを抱えているかもしれません。あとは例えばトランポリンなど骨盤底筋に大きな負荷がかかるスポーツが原因になることも。

aboutourbodies_003_03@2x-100.jpg

最近トランポリンジムなどトランポリンを楽しめる施設も増えてきましたが、やりすぎはよくなさそうですね……。

竹元先生
骨盤内には膀胱、子宮、腸などの臓器が収まっています。これをハンモックのように支えているのが骨盤底筋といわれる筋肉です。骨盤底筋は腹圧がかかることで常にダメージを受けています。そのダメージによって筋肉が緩むことで尿もれが起きてしまうことがあります。

ちなみに、女性にとって妊娠・出産は骨盤底筋へのダメージがもっとも大きいイベントと言われています。腟分娩の場合はさらに負担が大きくなります。産後に尿もれに悩まされるという方は少なくありません。

最近尿もれ関連のCMを目にする機会も増えましたが、まったく珍しいトラブルというわけではなく、当たり前に起きてしまうことなんです。

腟トレブームがもたらしたもの


生理の話は最近テレビなどでも取り上げられることも増えて、少しずつ語りやすい雰囲気になってきたような気がするのですが、尿もれの話はまだまだ人にはしづらいと思ってしまいます。

竹元先生
しにくいですよね。クリニックにも「すごく恥ずかしいんですけど……」と言って相談に来られる方が多いです。全然恥ずかしいことじゃないし、よくあることなんですよ。

日々の暮らしや、趣味のスポーツなどで骨盤底筋を鍛えることはできるのでしょうか。

竹元先生
骨盤底筋を意識できれば、姿勢をよくして呼吸をするだけの動作でも鍛えることはできるのですが、慣れるまではなかなか難しいかもしれませんね。

aboutourbodies_003_02@2x-100.jpg

骨盤底筋を意識するということがそもそも難しいですよね。まずどこにあるのか分からない人が多そうです。

竹元先生
いわゆる「腟トレ」という言葉がありますが、基本的に腟だけ鍛えるというのは無理なんです。骨盤底筋全体を鍛えて引き上げることで、腟も引き上がるので、それを腟トレと言っているんですよね。自分だけで骨盤底筋を鍛えることは難しいかもしれませんが、最近は「腟トレ」ブームの影響で、ジムなどでも骨盤底筋を意識するようなプログラムが出てきているので、骨盤底筋に意識を向ける人が増えてきたら嬉しいですね。

最近は骨盤底筋を鍛えるエムセラという専用の治療器具も登場しました。わたしのクリニックにもあるのですが、エムセラに乗ると骨盤底筋の場所がわかるようになるので「ここが骨盤底筋なのね!」と気付きを得られる方が多いです。

エムセラ、とても気になります。ぜひ今度体験してみたいです。

竹元先生
尿失禁や骨盤内臓器脱などの治療目的のほかにも、性機能の改善のためにエムセラを利用する方もいらっしゃいます。尿失禁や性機能改善の話はタブー視されるべきものではないですし、少しずつオープンに語れるようになってきたことはいいことだと思いますね。

自分らしく生きるための骨盤底筋トレーニング


私自身はまだ少し気恥ずかしさを捨てきれないのですが、自分の身体の状態をもっとフラットに捉えられるようになっていくといいな、と思います。

竹元先生
尿もれについては、どの段階で病院に相談に行くべきなのでしょうか。生理痛と同様に病院に行くか行かないかで迷う人は多そうです。

病院に行く基準ですが、日常生活の中で困ることがあるのであれば、一度相談に行った方がいいと思います。海外の話になりますが、フランスだと骨盤底筋のケアがすごく進んでいて、産後の骨盤底筋のリハビリに国がお金を出していた時期もありました。先程もお話しましたが、妊娠・出産が骨盤底筋に大きな負担を与えることが浸透していて、それをケアするのは当然だと捉えられています。もちろん文化の違いもあると思いますが、「妊娠・出産で女性がダメージ受けるのとかありえない!できるだけ負担を減らすようにするのは当然! ダメージを受けたら産後ケアは必須!」といった価値観の方が多いように思います。

aboutourbodies_003_01@2x-100.jpg

日本でも骨盤底筋のトレーニングや産後のケアが当たり前の存在になっていくといいですね。産後ケアの話が有りましたが、改めて骨盤底筋を鍛えるメリットを教えてください。

竹元先生
まずは今回のテーマでもある尿もれの改善。骨盤底筋が引き上がると骨盤の中の臓器が引き上がるのでくびれができるなどのスタイルアップにも繋がるといわれています。あとは将来的な子宮脱などの骨盤臓器脱を予防する効果も。割と幅広い効果がありますね。骨盤底筋を意識できて悪いことはひとつもないです。いいことしかない。出産に関してもしなやかに骨盤底筋が動くほうがいいと思います。

骨盤底筋を自分だけで鍛えるのは少し難しいというお話もありましたが、いますぐできることはありますか?

竹元先生
難しいかもしれませんが、意識することからはじめてみてください。椅子に座って、少し肛門のあたりを締めて引き上げるイメージです。より興味が出てきたらエムセラを利用してみるのもいいですし、ジムなどで人の手を借りてトレーニングしてみるのもいいですね。



interview・text:貴子