詩人 黒川隆介とお酒を嗜む。第五回〈Amulet-D〉

こんばんは。浅草フランス座での詩のツーマンライブを終え、北野武さんへの意識がますます高まっている黒川隆介です。詩を書くことと、コピーライター業を生業としながら、酒場から酒場へとはしごする日々を過ごしています。

今回は渋谷のんべえ横丁にある「Amulet-D」にお邪魔しました。
7年ほど前、歳上の飲み仲間に連れて来られたのがきっかけでしたが、魑魅魍魎といったお客の面々を猛獣使いのように店主のオミさんが切り盛りしている様が印象的で、それ以来近くを通った際には寄らせてもらうようになりました。

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■ Shop Information
Amulet-D
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷1-25-10
営業時間:18:00〜26:00
定休日:日曜日

「とりあえずビール」といった注文はここでは得策ではありません。
店主のオミさんに気分を伝えてみれば、そのときの疲れや状態に相性のよい飲み物を抜群の仕上がりで出してくれます。いつもと毛色の違う、さっぱりしたものを、という曖昧なイメージをお伝えしたところ、じゃあこれを、と登場したのが特製ジントニック。

ダミアン・ハーストの作品を思わす、ビジュアルのうつくしさ。このまま琥珀で固めて持ち帰りたいという衝動を抑えて、ひとくち。グラスの中をぐるっと一周走るきゅうりの風味がトニックウォーターに染み込んでおり、その広がりがジンと溶け合いながら身体に沁みわたっていきます。バーに出向いたことがない者でも耳にしたことはあるその名前、ジントニック。人生はじめての日と最後の日に飲むジントニックはここのジントニックを希望。うまい。1分ほどで飲み干してしまった。

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つづいてはハイボール(THE IRISHMANのソーダ割り)を。
こちらのハイボールはよそで飲むハイボールと随分と違う。これまで幾晩も立ち寄り、それを体感してきてはいましたが、今回その秘密を少し聞くことができました。

基本的にソーダとウイスキーしか使わないハイボールだからこそ、些末な部分にまで氷にこだわる。水とアルコールが溶け合うことで起きる化学反応を氷を介して調整する。用いるウイスキーによって氷の表面をざらつかせたり、ものによっては小さめにしたりと、ひとつひとつ氷をその腕前で形作ることによって、ここにしかない味わいになっている。

酒のおいしい店はえてして氷にこだわっているというのも酒飲みあるあるではありますが、こちらAmulet-Dのお酒はそんななかでも違いを感じます。ぜひ一度お試しあれ。
かくいう自分の主戦場はアイスピックの備えもない大衆酒場が多いのはジレンマではありますが、人生には幅が大切、歩道橋下飲みからラウンジまで、酒を片手に歩いていきたいところです。

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日毎と言ってもよいほどに古い建物は消え、新しいビルが乱立し姿が変わっていく渋谷。新南口あたりもかつての様相はまるでなくなり、唯一の風情が残っているのがここ渋谷のんべえ横丁といった具合でしょうか。
渋谷のんべえ横丁といえばかつては敷居が高く、一見さんは入れないイメージもありましたが、ここ数年で排他的な部分も変化し、ずいぶんオープンになってきたようです。渋谷なんて若者以外が飲む場所はあるのかね、といった観念はいま一度放り投げてみて、戦後闇市の名残香るのんべえ横丁を覗くには絶好のタイミング。
仕事を終えたら日々直帰、ではなく、たまには非日常漂うバーに寄ってみてはいかがでしょうか。
「バーは、明日を気持ちよく迎えるための準備をする場所」
オミさんの言葉から、どこでもお酒は飲めるけれども、どこで飲むかが明日の迎え方を小さくも左右するんじゃないかと思った帰り路でした。

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それでは今回も詩で締めくくりたいと思います。

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WRITER
黒川 隆介 -Kurokawa Ryusuke-
16歳から詩を書き始め、国⺠文化祭京都2011にて京都府教育委員⻑賞を受賞。最新の詩集は『この余った勇気をどこに捨てよう』。連載にマガジンハウス『POPEYE Web』での「私的にいいとこ、詩的なところ」や、タワーレコードのWebメディア『Mikiki』での「詩人・黒川隆介のアンサーポエム 」がある。脳科学者からラッパーまで枠を超えた対談を多数行い、雑誌『BRUTUS』の本特集でも対談が4Pに渡り組まれる。詩人の傍らコピーライターとしての一面も持ち、企業の広告コピーも手がける。