今さら聞けない私たちのからだのこと - 低用量ピル

2023.06.09
あなたのからだのこと・からだの中で起きていること、あなたはどれだけ知っていますか?

好きなことに対しての熱量は高いのに、自分のからだのこととなるとついつい疎かになってしまったり、後回しにしてしまったり。悩みがあっても「今さら聞くのは恥ずかしい」気持ちが顔を出してきてそのままにしてしまったことはありませんか?

「もっと早くに知っておけばよかった」を巻き戻すことはできないけれど、「今知ってよかった」を重ねていくことはできます。この連載では、sowaka women’s health clinicの竹元葉先生に、私たちのからだのこと・からだの中で起きていることを基本の基から聞いていきます。
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低用量ピル

月経痛やPMSの原因を根本から考える


わたしはピル(低用量ピル)を使ったことがないのですが、飲むとどのような効果があるのでしょうか?

竹元先生
ピルには卵胞ホルモンと黄体ホルモンが含まれているので、毎日飲むことでその2種類のホルモンは足りていると脳が判断して排卵が抑制されます。子宮の内膜も薄いままで保たれるので、薬を飲んでいる間は出血がなく、休薬期間に出血する(消退出血)というサイクルになります。

どのような目的で使われることがあるのでしょうか。

竹元先生
月経痛が辛い方への処方がメインです。子宮内膜が厚くならないので、内膜に発現するプロスタグランジン(痛みの原因物質)の産生が抑えられることで痛みが軽減します。また、排卵によるホルモンのアップダウンが抑えられるのでPMSの改善効果も期待できます。もちろん避妊を目的として使う方もいらっしゃいます。避妊目的で受診された場合は自費になりますが、月経痛などの治療のために使う場合は保険が適用されます。費用は、後発医薬品(ジェネリック医薬品)があるものですと1シートあたり1000円強から、高いものだと3000円程度までとさまざまです。

痛みの根本を取り除くイメージですね。

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竹元先生
生理不順やニキビの治療のために服用される方もいます。ニキビについては原因によりますが、ホルモンバランスの乱れによって引き起こされるものにはピルを処方することがあります。

他にも病気の治療を目的としてピルが処方されることはありますか?

竹元先生
多嚢胞性卵巣症候群(卵胞の成長がうまく行かず、生理不順、排卵障害などが起こる病気)では、病気の影響で男性ホルモンが多く分泌されることがあるのですが、男性ホルモンの作用を抑えるタイプのピルを処方することもあります。(抗アンドロゲン作用、ヤーズ、ヤーズフレックスなど)を持つピルを処方することがあります。

他にも、子宮内膜症などの治療に使うことも。子宮内膜症は、本来は子宮の内側にある内膜に似た組織が卵巣や骨盤内など、子宮の内側以外の場所で増えてしまう病気です。卵巣内で増えてしまうと卵巣チョコレート嚢胞、子宮の筋肉の間で増えてしまうと子宮腺筋症になります。そもそも子宮の内膜が毎月毎月厚くなって剥がれることが(月経があることが)そのような症状を抱えている方にとってはリスクです。ピルを飲むことで子宮内膜が厚くなることを防ぎ、病気の進行を止めることができるんです。

月経を重ねることが病気のリスクになっているのですね。男性ホルモンを抑える力のお話がありましたが、ピルにもいろいろな種類があるのですね。

竹元先生
保険適用になるピルはほとんどが超低用量のものです。低用量と超低用量で異なるのは卵胞ホルモンの量。さらに、含まれる黄体ホルモンのタイプによってもさまざまな種類があるので、本人の症状や体質に応じてより適しているピルを提案します。

例えば先ほど挙げた男性ホルモンを抑える力(抗アンドロゲン作用)が強いピルは、多嚢胞性卵巣症候群の治療には適していますが、筋力や競技力に影響が出やすいパワー系アスリートへの処方は避けることが多いです。

服用のメリットとデメリットを理解する


ピルを飲むメリット・デメリットについてもう少し教えていただけますか。

竹元先生
メリットは、月経痛やPMS、生理不順、ホルモンバランスの乱れによるニキビなどの治療に向いていること。受験や部活の大会など人生の大事なライフイベントを月経に振り回されたくない、と受診される方もいらっしゃいます。

デメリットとしては、まず毎日同じ時間に飲まなければいけないということ。副作用として最初の数ヶ月はマイナートラブルが起きることがあります。お腹が張ったり、胸が痛くなったり、気持ち悪くなったり、不正出血があったり……だいたい2〜3ヶ月以内には落ち着きます。血栓症(血液の塊が血管に詰まってしまう病気)に関しては、喫煙者や高BMI、血栓症の家族歴があるなど、元々リスクの高い方以外はそこまで大きく心配する必要はありません。使うメリットと副作用が起きるデメリットを考えたときに、メリットのほうが大きい方の方が多いのではないかと思います。

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毎日飲む必要がある点が心配です。風邪薬も割と飲み忘れてしまうので……。

竹元先生
慣れるまではリマインダーやアラームを設定するのも良いかもしれません! わたしのおすすめはメイクポーチの中など気付きやすいところにいれておくこと。毎日同じ時間に化粧をするのであれば、ポーチを開ければ気付きますよね。玄関のドアに貼って家を出る直前に飲むという方もいらっしゃいました。自分の生活リズムの中に組み込めるとよいですね。あと、これは推奨しているわけではないのですが、薬としては小さいサイズなのであっ!と気づいた時に、手元に水がなかったとしても唾液を溜めて飲めなくもないです(笑)。

少し安心しました(笑)。ちなみに1日でも飲み忘れてしまったらダメなのでしょうか……。

竹元先生
飲み忘れてしまったら気づいたタイミングで飲めば大丈夫です。ただ、飲み忘れが多いと不正出血をしたり、薬の効果が不十分になってしまったりする可能性もあるので、もちろん飲み忘れないほうがベターです。

自分の身体を主体的に捉えよう


自分の性格やライフスタイルにあう飲み方を見つけられるとよさそうですね。

竹元先生
副作用はゼロではない薬なので慎重に使う必要がありますが、月経痛やPMSによって日常生活に支障のある方には、主体的に月経をコントロールする方法の一つとして個人的にはもっと広まって欲しいです。生理によって振り回される生活から、自分で生理をコントロールするという考え方です。また、女性主体の避妊方法としても簡便かつ効果が高いと思います。

(女性が)主体的に選べる避妊方法って日本だとまだまだ少ないですよね。少し前にミレーナを装着した芸能人のインタビュー記事がかなり話題になっていましたが。

竹元先生
海外だとインプラントやシールなど様々な種類がありますし、病院に行かずとも、薬局でピルを購入できる国もあります。

サブスクリプションサービスなどの影響で少しずつピルの認知は上がってきたような気がしますが、間違った認識を持っている人は多そうです。

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竹元先生
そうですね。冒頭でお話したように、月経痛やPMSの治療のために飲んでいる人が多いですが、避妊薬のイメージを持つ方も多いので「妊娠しづらくなるのでは」と聞かれることもありますが、そういった事実はありません。

ピルも含めて、女性が主体的に自分の身体の健康について考えて知識を得ることが当たり前になってほしいですし、いまは服用する機会がないと考えている人にも心身を健康に保つ方法の一つとして認識されていってほしいですね。


interview・text:貴子