On Beauty: Ayumi Kusumi #9 Simplicity

2023.04.30
雑誌メディアやご自身のSNSを中心に、シンプルで丁寧な言葉と美しい写真で織りなす日常や世界観に注目が集まるエッセイスト久住あゆみさんの連載。


久住さんが考える「美」とは?

On Beauty: Simplicity

「シンプルな美しさについて」

シンプルなものは美しい。
よく言われる言葉ですね。

でもシンプルなだけで美しさが成立するかというとそうではない。単純で簡素なだけでは美には遠い。そこがシンプルの難しいところ。

シンプルさは奥深く極まればこの上ない美しさになりますが安易に取り入れると平凡で退屈になってしまう。

アートでいうと彫刻家 コンスタンティン・ブランクーシやリチャード・セラのシンプルでミニマルな作品が、なぜ歴史的な作品として受け継がれているのでしょう。


ブランクーシが追求したシンプルさというのは彼が取り上げたモチーフをよく観察すると、実は素朴で人間味に溢れたもの。リチャード・セラに関しても一見すると巨大でシンプルな鉄板が並んでいるだけ。だけど、言葉では言い表せないような凄まじい存在感と荘厳さがある。


身近なところで洋服を例にとるとThe Row やJIL SANDERの服はシンプルなだけの洋服とは何が違うのでしょうか。
素材が違う。もちろん、価格も違う。

でも何よりも本質の部分が決定的に違う。
それは、複雑さを含むシンプル。だということ。

精巧な、緻密な思想の上で限りなく削ぎ落とすことで完成させた手の込んだシンプル。

だから、一見何の変哲もなく見えても着てみると何かが違う。説明するには難しいけれど。という現象が起きる。それこそが、奥深さが息づいている証明なのではないでしょうか。

シンプルが魅力として成立する条件は複雑さが内包されていることなのだと思います。

それは作り手の経験、思想、などのパーソナルなものかもしれないし、歴史やアート、建築などの造詣の深さやそこから得たインスピレーションかもしれない。
様々に積み重なった要素をひとつにし、そこから審美眼を用いて必要なエッセンスだけを吟味してシンプルな形として抽出する。

その繊細な工程があるからこそ、複雑で芳醇な香りが立ち上る。

きっとそれが、シンプルな美しさの真骨頂。
WRITER
久住 あゆみ -Kusumi Ayumi-
エッセイスト。大阪府出身、東京都在住。上京後、モデルとして主にCM、広告、ショーなどで活動。結婚、出産後しばらくの休業期間を経てエッセイストとして始動。培ってきた感性や体験を活かし、ジャンルに捉われない様々な分野でエッセイを執筆中。