美しさについて。 vol.6 柿崎麻莉子
2023.04.25
vol.6 柿崎麻莉子(ダンサー・振付家)
イスラエルのコンテンポラリーダンス・カンパニー、バットシェバ舞踏団のメンバーになり、その後、イスラエルのL-E-V Sharon Eyal | Gai Beharに所属し、日々世界ツアーを行ってきたダンサーの柿崎麻莉子さん。現在は、日本を拠点に、振付家、ダンサーをしながら、子育てをする彼女に、身体の内側から溢れてくる美しさについて聞きました。
――コンテンポラリーダンスを始めたのは大学時代だったそうですが、どんな出合いだったのでしょうか?
それまでは新体操をやっていたんですが、これじゃないんじゃないかという思いは感じていて、自分がしっくりくるダンスをずっと模索していたんです。コンテンポラリーダンスと出合って、こういう世界もあるのかと思って。コンテンポラリーダンスという芸術の世界を知って、一人ひとりが違う方法で世界を楽しんでいる姿にすごく惹かれました。
とはいえ、創作者によってそれぞれに異なる美しさについての考えがあります。自分の価値観に合う人を探していた大学3年生のときにイスラエルのカンパニー、バットシェバ舞踊団の日本公演を観て、「この人の作品の中で踊りたい!」と感動したんです。構造もしっかりありながら、舞台上で踊っているダンサーの身体が、男も女もない人間である以前に野生動物のようにのびのびと生きているように感じて、そこで働きたいと思いました。
ーー大学卒業後、2012年からバットシェバ舞踏団に入団され、イスラエル、テルアビブを拠点に暮らすことになったわけですが、その経験はご自身にどんな変化をもたらしたと考えていますか?
ダンサーとして成長できましたし、自分が大事にしたいことが徐々にクリアになっていく感覚がありました。私は踊っているとき、 自分の体と向き合うときが一番安心するんです。自分の家に帰ってきたように感じる。自分が生きていること自体がダンスなんだということに確信がもてたのは、すごく大きかったですね。私をダンスと出合わせてくれて、ありがとう!と実感しました(笑)。
ーーその後、2015年からシャロン・エイアール率いるL-E-V Dance Companyに所属され、世界中の劇場でツアーを行う生活をされていたわけですが、現在は、日本を拠点に活動されています。日本に帰ってきたきっかけは?
L-E-V Dance Companyで素晴らしいアーティストに出会えたことは本当に自分の財産なんですが、プロダクションの規模が大きいカンパニーに10年ほど在籍するなかで、自分のサイズに合うことをやりたいと考え始めたんです。自分にできることは何かなと。元々日本が好きですし、海外に暮らしていると、家族が大変な状況になってもすぐ行くことはできない。その状況が私には耐えられなかったんです。それでちょうどコロナの時期も重なって、帰国することにしました。
子どもができたこともあり、私自身、香川県生まれの山育ちなので、あまり都心で子育てをするという想像ができず、少しずつ拠点をズラす準備をしている感じです。ずっと同じところに留まっていると、その場所の考え方、リズムが染み付いてしまうので、自分が所属していない場所に用事があって訪ねるのはいい機会だなと思ってます。住んでいる場所から離れて見えてくるものはたくさんありますから。
ーー2021年にお子さんを出産されて、クリエイティブ面で変化はありましたか?
ものすごい変化がありました。子どもができるまでは、アーティストとして何を考えるか、何を面白いと思うか、どうすれば身体を自分が使いたい道具にできるかとか、自分自身と向き合っていればよかったんです。アーティストとして、性別を意識せず生活できていた。でも、母親になった途端、社会から女性として要求される項目の多さにジェンダー格差ってこんなに存在するんだ!とびっくりしました。知らなかったから。もちろん、子どもはめちゃくちゃ可愛いですし、一緒に過ごしたいし、楽しいんですけど、現代社会で子育てすることがこんなに大変なら、先に教えといてよ!と思いましたよね(笑)。純粋に、子育ては見えない作業がたくさんあるから、全体の仕事量が増える。
私はすごくラッキーなことに、周りの理解があって仕事ができていますが、幼い子どもがいながら仕事をするとなると、職場に子どもを連れていくにしても一つひとつ仕事相手に説明しなくちゃいけない。働く母をサポートするシステムがない社会に対して摩擦を感じています。自分が自分であるためにしたいことを、すんなりとさせてくれない社会に。作品づくりにおいても当然その摩擦を意識することになりますし、 現在の社会とリンクした、切実で正直な表現になってくる。その変化が自分を豊かにしていると感じますし、面白いなと楽しんでいます。
ーー柿崎さんが考える、美しさとは?
仕事柄、美しさをムーブメントでとらえてしまいがちなのですが、たとえば、二人の人間が鏡合わせになって、シャドウイングのようにお互いの動きを真似する。それは見ていてとても美しいな。子どもたちにそのワークをやってもらったとき、見ていた小学生の子が「きれい」と言ったんです。やっていた子は「自分と相手が一つになった感じ」と話してくれて。言葉はなくてもコミュニケーションが取れているという居心地の良さもあるし、相手を集中して感じながら動こうとする姿って、やっぱり美しいものですよね。
身体のコミュニケーションって、子ども大人関係なくわかるんですよ。本来、ダンスってそういうものなんです。それと、最近「うっとりワーク」というワークもやるんです。たとえば、この空間でうっとりするところを探して言うんです。 あまり真剣に考えないのがポイント。次は、人間に対して、うっとりするところを言い合う。このワークは、見方の練習なんですね。良い悪いをジャッジしたり、比較したりしなきゃいけない世界で生きているけれど、そんなことしなくていいよと。大雑把でもうっとりできる方向に見方の癖をつけることで、全部が美しく見えてくるんですよ。
ーー先ほどダンスをされている際に、揺れるウェアのドレープにもうっとりしました。
ありがとうございます。今日、私、撮影があることがすっかり頭から抜けていて、ヘアメイクもせず、ボロボロのパジャマみたいな格好で来たんですけど、ヘアさん、メイクさん、スタイリストさんに仕事をしてもらえば、 誰でも、体外的には美しくなるものだと思うんです。でも今日、すっぴんで来て、すごくよかったと思って。私は誰かに美しくしてもらってない、誰かの美しいに合わされてない自分の身体が好きだし、安心する。 だから、こういう話をするときに、こういう姿でいられたのはよかったな。うっかりなんですけど(笑)。
ーー何かに美しさを感じるとき、どんな感情になりますか?
感動しているとき、その美しさのなかに自分が消えていくような、吸い込まれて蒸発するような感覚になりますね。
ーー美しさをいろんなところに見出している柿崎さんは、どんな人を美しいなと思いますか?
その人がその人らしくいられていることが一番ですよね。自分であり続けようと諦めてない人。自分の難しさ、ぎこちなさ、ややこしさを日々感じながらも、そういう部分から目を背けずに受け入れて、 なんとか付き合っている人が美しいなと思います。
――コンテンポラリーダンスを始めたのは大学時代だったそうですが、どんな出合いだったのでしょうか?
それまでは新体操をやっていたんですが、これじゃないんじゃないかという思いは感じていて、自分がしっくりくるダンスをずっと模索していたんです。コンテンポラリーダンスと出合って、こういう世界もあるのかと思って。コンテンポラリーダンスという芸術の世界を知って、一人ひとりが違う方法で世界を楽しんでいる姿にすごく惹かれました。
とはいえ、創作者によってそれぞれに異なる美しさについての考えがあります。自分の価値観に合う人を探していた大学3年生のときにイスラエルのカンパニー、バットシェバ舞踊団の日本公演を観て、「この人の作品の中で踊りたい!」と感動したんです。構造もしっかりありながら、舞台上で踊っているダンサーの身体が、男も女もない人間である以前に野生動物のようにのびのびと生きているように感じて、そこで働きたいと思いました。
ーー大学卒業後、2012年からバットシェバ舞踏団に入団され、イスラエル、テルアビブを拠点に暮らすことになったわけですが、その経験はご自身にどんな変化をもたらしたと考えていますか?
ダンサーとして成長できましたし、自分が大事にしたいことが徐々にクリアになっていく感覚がありました。私は踊っているとき、 自分の体と向き合うときが一番安心するんです。自分の家に帰ってきたように感じる。自分が生きていること自体がダンスなんだということに確信がもてたのは、すごく大きかったですね。私をダンスと出合わせてくれて、ありがとう!と実感しました(笑)。
ーーその後、2015年からシャロン・エイアール率いるL-E-V Dance Companyに所属され、世界中の劇場でツアーを行う生活をされていたわけですが、現在は、日本を拠点に活動されています。日本に帰ってきたきっかけは?
L-E-V Dance Companyで素晴らしいアーティストに出会えたことは本当に自分の財産なんですが、プロダクションの規模が大きいカンパニーに10年ほど在籍するなかで、自分のサイズに合うことをやりたいと考え始めたんです。自分にできることは何かなと。元々日本が好きですし、海外に暮らしていると、家族が大変な状況になってもすぐ行くことはできない。その状況が私には耐えられなかったんです。それでちょうどコロナの時期も重なって、帰国することにしました。
子どもができたこともあり、私自身、香川県生まれの山育ちなので、あまり都心で子育てをするという想像ができず、少しずつ拠点をズラす準備をしている感じです。ずっと同じところに留まっていると、その場所の考え方、リズムが染み付いてしまうので、自分が所属していない場所に用事があって訪ねるのはいい機会だなと思ってます。住んでいる場所から離れて見えてくるものはたくさんありますから。
ーー2021年にお子さんを出産されて、クリエイティブ面で変化はありましたか?
ものすごい変化がありました。子どもができるまでは、アーティストとして何を考えるか、何を面白いと思うか、どうすれば身体を自分が使いたい道具にできるかとか、自分自身と向き合っていればよかったんです。アーティストとして、性別を意識せず生活できていた。でも、母親になった途端、社会から女性として要求される項目の多さにジェンダー格差ってこんなに存在するんだ!とびっくりしました。知らなかったから。もちろん、子どもはめちゃくちゃ可愛いですし、一緒に過ごしたいし、楽しいんですけど、現代社会で子育てすることがこんなに大変なら、先に教えといてよ!と思いましたよね(笑)。純粋に、子育ては見えない作業がたくさんあるから、全体の仕事量が増える。
私はすごくラッキーなことに、周りの理解があって仕事ができていますが、幼い子どもがいながら仕事をするとなると、職場に子どもを連れていくにしても一つひとつ仕事相手に説明しなくちゃいけない。働く母をサポートするシステムがない社会に対して摩擦を感じています。自分が自分であるためにしたいことを、すんなりとさせてくれない社会に。作品づくりにおいても当然その摩擦を意識することになりますし、 現在の社会とリンクした、切実で正直な表現になってくる。その変化が自分を豊かにしていると感じますし、面白いなと楽しんでいます。
ーー柿崎さんが考える、美しさとは?
仕事柄、美しさをムーブメントでとらえてしまいがちなのですが、たとえば、二人の人間が鏡合わせになって、シャドウイングのようにお互いの動きを真似する。それは見ていてとても美しいな。子どもたちにそのワークをやってもらったとき、見ていた小学生の子が「きれい」と言ったんです。やっていた子は「自分と相手が一つになった感じ」と話してくれて。言葉はなくてもコミュニケーションが取れているという居心地の良さもあるし、相手を集中して感じながら動こうとする姿って、やっぱり美しいものですよね。
身体のコミュニケーションって、子ども大人関係なくわかるんですよ。本来、ダンスってそういうものなんです。それと、最近「うっとりワーク」というワークもやるんです。たとえば、この空間でうっとりするところを探して言うんです。 あまり真剣に考えないのがポイント。次は、人間に対して、うっとりするところを言い合う。このワークは、見方の練習なんですね。良い悪いをジャッジしたり、比較したりしなきゃいけない世界で生きているけれど、そんなことしなくていいよと。大雑把でもうっとりできる方向に見方の癖をつけることで、全部が美しく見えてくるんですよ。
ーー先ほどダンスをされている際に、揺れるウェアのドレープにもうっとりしました。
ありがとうございます。今日、私、撮影があることがすっかり頭から抜けていて、ヘアメイクもせず、ボロボロのパジャマみたいな格好で来たんですけど、ヘアさん、メイクさん、スタイリストさんに仕事をしてもらえば、 誰でも、体外的には美しくなるものだと思うんです。でも今日、すっぴんで来て、すごくよかったと思って。私は誰かに美しくしてもらってない、誰かの美しいに合わされてない自分の身体が好きだし、安心する。 だから、こういう話をするときに、こういう姿でいられたのはよかったな。うっかりなんですけど(笑)。
ーー何かに美しさを感じるとき、どんな感情になりますか?
感動しているとき、その美しさのなかに自分が消えていくような、吸い込まれて蒸発するような感覚になりますね。
ーー美しさをいろんなところに見出している柿崎さんは、どんな人を美しいなと思いますか?
その人がその人らしくいられていることが一番ですよね。自分であり続けようと諦めてない人。自分の難しさ、ぎこちなさ、ややこしさを日々感じながらも、そういう部分から目を背けずに受け入れて、 なんとか付き合っている人が美しいなと思います。
PROFILE
柿崎麻莉子(かきざき・まりこ)
香川県出身、元新体操選手。Batsheva ensemble Dance Company(2012-2014)に所属後、L-E-V Sharon Eyal|Gai Behar(2015-2021)を経て、世界各国で公演・WS指導を行う。 2011年韓国国際ダンスフェスティバル金賞、2013年度香川県文化芸術新人賞、2014年Israel Jerusalem Dance Week Competition、2020年日本ダンスフォーラム賞、2021年日本ダンスフォーラム賞、など受賞。 2021年カルチャーセンター「beq」を熊本にOPENし、文化や芸術をカジュアルに楽しめる場を目指して活動中。「GAMAMA」を主催し、オンラインWSなどを実施。Gaga指導者。
https://mari-kaki.amebaownd.com/
柿崎麻莉子(かきざき・まりこ)
香川県出身、元新体操選手。Batsheva ensemble Dance Company(2012-2014)に所属後、L-E-V Sharon Eyal|Gai Behar(2015-2021)を経て、世界各国で公演・WS指導を行う。 2011年韓国国際ダンスフェスティバル金賞、2013年度香川県文化芸術新人賞、2014年Israel Jerusalem Dance Week Competition、2020年日本ダンスフォーラム賞、2021年日本ダンスフォーラム賞、など受賞。 2021年カルチャーセンター「beq」を熊本にOPENし、文化や芸術をカジュアルに楽しめる場を目指して活動中。「GAMAMA」を主催し、オンラインWSなどを実施。Gaga指導者。
https://mari-kaki.amebaownd.com/
movie&photo : Yu Inohara
text : Tomoko Ogawa
edit: Nobuko Sugawara(euphoria-factory)
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