詩人 黒川隆介とお酒を嗜む。 第2回〈 Bar MATE 〉

こんにちは。あるいは、こんばんは。二日酔いが数ヶ月に渡り、秘伝のタレのように酒が残りつづけている黒川隆介です。とはいえ、酒を飲んで詩を書くこともコピーを書くこともありません。アウトプットはシラフで、インプットは酩酊で。


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こちらの『Bar MATE』さんにはじめてお邪魔したのは二十歳の頃だったでしょうか。
血気盛んな先輩に連れられて深夜に入店したのですが、「はじめまして」と挨拶をしかけたところ、挨拶がわりという文字通りマスターにボディを打ち込まれました。あれ以来、はじめてのお店に行く際には腹筋に力をいれて伺うようにしています。後に知ることになりますが、このマスターが唯一、この街でマスターと呼ばれる男、海よりも懐の深い、伝説のマスターでした。


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オープンして23年半、その間に税金が8%になろうと10%になろうと、2度しか値段を変えず、ノーチャージ。19時〜翌朝5時までひとりでお店を切り盛りする理由も「長く開けていろんなお客さんに来てもらわないと売り上げにならない」とのこと。常連であればあるほど、良心価格が過ぎるので値段設定の見直しを提言するものの、チャージはつけたくない、明朗会計にしたい、せっかく覚えた値段がわからなくなるのは嫌だとのことで、結局毎年年間の休みの日は10日間ほど。もっと休んでくださいマスター。
■ Shop Information
Bar MATE
〒213-0002 神奈川県川崎市高津区二子5-1-15 溝ノ口ビル1F
営業時間:19:00~29:00 (翌5:00)
年中無休 (コロナ禍以前は日曜定休)


『Bar MATE』といえば、「オールド・グランダッド」。オープンしてから開栓するごとに数字を書き足し、累計3994本目のダッドでまずはソーダ割りをつくっていただきます。お店によってはハイボールを頼むとレモンが入ってくることがありますが、あれは個人的には世界の七不思議が八不思議になるものとして一つ加えたい。レモンありのハイボールはもう台無しハイボール。台無しハイボールください、と言ったらはじめてレモンを入れてもらいたい。こちらのもちろんレモンなしのダッドのハイボールは600円 (税込) 。ドリンクもフードもすべて税込です。


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季節によっては贅沢にスイカをごろっと使ったスイカのカクテル、涼感漂うモヒートなんかもおすすめです。このボリューム感はカクテルというよりは軽食、デザートを食べているという景気の良い感じがしますね。


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カレーが好きなのでよく神保町へ足を運びますが、ダークホースは高津にいました。
専任コックの雇用を疑うほど旨いです。ナンがお皿を覆うようにたっぷり付いて1000円 (税込) 。これが朝4時なんかにも食べられるとなると、COCO壱さんからマスターの命が狙われないか気がかりです。マスター帰り道は腹筋に力を入れて。


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一見さんにも親切でやさしく、常連さんにも変わらず驚くほどに温かい。バーとして当たり前のようでその当たり前をぶれずに長年やっているバーを自分は他に知りません。虫歯の痛みで眠れない夜に、自らペンチで歯を抜き朝起きると血まみれになっているマスター、痛風なのにビール飲んで足をひきずって営業するマスター、映画とブルースリーとジョジョが大好きなマスター。この街、高津、溝の口がまだまだ栄えていなかった頃に店を構え、若い者が出てくれば迎え入れ、時代を教え、陰ながら守ってきたマスター。この街で「マスター」がそのままあだ名になってしまった唯一の男。


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オーセンティックな構えのバーに行くのが緊張するといった若い人、どうぞ『Bar MATE』に行ってみてください。
どうしてこれまであのドアを開けなかったのかと、マスターの人柄と腕を前に思うことでしょう。
それでは、今回も詩を一つ書いてみました。

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WRITER
黒川 隆介 -Kurokawa Ryusuke-
16歳から詩を書き始め、国⺠文化祭京都2011にて京都府教育委員⻑賞を受賞。最新の詩集は『この余った勇気をどこに捨てよう』。連載にマガジンハウス『POPEYE Web』での「私的にいいとこ、詩的なところ」や、タワーレコードのWebメディア『Mikiki』での「詩人・黒川隆介のアンサーポエム 」がある。脳科学者からラッパーまで枠を超えた対談を多数行い、雑誌『BRUTUS』の本特集でも対談が4Pに渡り組まれる。詩人の傍らコピーライターとしての一面も持ち、企業の広告コピーも手がける。